駅やスーパーで売られているお弁当のご飯の上に、ちょこんと鎮座する小さな赤い梅の実。小さいからといってあなどるなかれ。一口に頬ばれば、意外に存在感のある酸っぱさがキュッと口の中に広がる。かじるとその実は思ったよりも肉厚で、小粒ながらにご飯を進ませるお弁当の名脇役である。
この小さな梅漬けに多く使われているのが、甲州小梅と呼ばれる山梨県を代表する特産品だ。県内で広く栽培されている品種のひとつで、種が小さく、果肉が厚いのが特徴。江戸時代の後期にはすでに県の特産として知られていたといわれている。庭木としても親しまれてきたこの甲州小梅の実を塩漬けし、天日に干さず固いまま調味液に漬け込んだものは「カリカリ漬け」と呼ばれている。地元の人々にとって梅の漬物と言えば、この甲州小梅漬けが身近なのだそう。一般的な梅干しと同じように漬けたものは「小梅干し」と呼ばれている。
5月中旬、じわりと夏を思わせる気温の中、甲府駅に降り立った。武田信玄公のお膝元としても有名なこの地は、小梅の産地として日本屈指の生産量を誇る。夏は暑く、冬は寒い甲府盆地特有の気候が、小梅の生育に適しているのだそう。収穫作業がピークを迎えていた小梅農家、中村芳雄さんの農園を訪ねた。