那覇市の中心地である国際通りから少し入ったところに、牧志公設市場がある。豚肉や山羊肉を扱う店や色とりどりの魚を並べた店がぎっしり連なっていて、一角に乾物や漬け物屋がある。漬け物屋の前で立ち止まったとたん、これを食べなさい、こっちも食べなさいと、“わんこそば”のように次々に試食させられてしまった。島らっきょうの塩漬けやキムチ風のもののほか、ゴーヤーのぬか漬けもあった。
「沖縄の人はキムチをよく食べますね。辛いのか甘いのか、はっきりした味が好きなんです。ぬか風味の漬け物もありますが、酸味があると傷んでいると思われてしまうんです」
そう教えてくれたのは、漬け物メーカー「彩園」所長の天願常典さん。天願さんによると、ふだん家庭で食べているのはキムチか梅干しが多く、ぬか漬けなどを食べる習慣はあまりないとのこと。市販の漬物も昔は東海漬物の「味キムチ」、たくあん、福神漬けくらいしかなかったそうだ。沖縄にキムチの食文化を伝えたきっかけは「味キムチ」だったのかもしれない。
スーパーのキムチコーナーと同じように、梅干コーナーも品揃えが多い。そのどれもが甘い梅干しで、梅の表面もしわがなくつるりとしている。梅干しの消費量が人口比で日本一(北海道と首位争いをしている)と聞いて、さらに驚いた。このほか、ゴーヤーを使った昔からの漬け物に糖漬けや酢漬けがあった。ゴーヤーのキムチが出てきたのは10年くらい前からで、県外の人のリクエストで作り始めたようだ。
ゴーヤーは通年あるが、島らっきょうのシーズンは2月末から7月末まで。塩の浅漬けが一般的で、県外の売り上げが伸びているという。彩園では島らっきょうを刻んで加えた「がんじゅうキムチ」が人気。「がんじゅう」とは、健康で長生きする(願寿)意味の沖縄言葉である。