柳井さんの漬ける寒漬けは道の駅で販売されるだけでなく、阿知須の小学校の給食にも登場する。毎年2月には小学校に出向いて寒漬けの作り方も教えているという柳井さんは「子どもたちに『給食の寒漬けはどうですか』と聞くと、『寒漬け、美味しいー!』って言うんですよ。やっぱりうれしいよね」と顔をほころばせる。
かつては阿知須のあちこちで大根が干され、冬の風物詩だったという寒漬け作りも、手がかかることなどから、今では大根の栽培から漬物づくりまですべて行うのは柳井さん一軒のみ。
それでも柳井さんが寒漬けを作り続けるのには、やはり阿知須の郷土の味を残していきたいという強い思いがあるからだ。生産農家が減ったとはいえ、寒干しされた大根を買って自宅で漬けるほど、地元の人々の寒漬けに対する愛着は強い。
「原料があれば自分で漬けてみようと思う人はたくさんいるんです。私も調味液の配合をプリントして道の駅に置いていますが、まずはそれで作ってみて、そのあとは好みで調節しながら家庭の味を作っていってもらえれば」と、寒漬けが身近な存在であり続けるためにさまざまな角度から取り組んでいる。
「阿知須の漬物と言えば寒漬けですから、何とか残していきたい。体が続く限りは続けていきますよ」と意気込む柳井さんは、御歳75歳。つけものやぐらの最上段までのぼり、重たい大根を干したりヒゲをむしったりと、丹精込めて寒漬け作りに励む。
阿知須の子どもたちは、そんな柳井さんの作る寒漬けの味を、きっと覚えていることだろう。地域の人々の手で守り継がれてきたふるさとの味が、途絶えることなく受け継がれていって欲しいと心から願わずにはいられない。