起伏豊かな秩父地方は埼玉県の面積の4分の1を占める。山里で水田は少なく、昔は麦畑や桑畑が広がっていた。男は炭焼き、女は養蚕に精を出し、秩父の風土にあった野菜を育てた。しゃくし菜は結球しない白菜の仲間で漬け物用の菜っ葉として親しまれていたが、白菜が中国から伝わるとしだいに姿を消した。
しゃくし菜畑を案内してくれたのは、農家の冨田繁正さん。周囲では稲刈りが終わり、自然乾燥のためのはざ掛けが見られる。収穫したばかりのしゃくし菜がまぶしいほど白く光って見える。
「体菜の仲間で、品種名は雪白体菜(せっぱくたいさい)といいます。肉厚の白い茎が特徴的で、明治に中国から入ったパクチョイが改良されてできたものみたいですね。形はチンゲンサイに似ていて、それを巨大にした感じでしょうか」
背丈は50~80センチに育ち、株元が白く太くなり、緑色の部分がふくらんでいて、その姿はたしかに「しゃもじ」に似ている。この葉の形から、匙菜(さじな)、お玉菜(おたまな)、布袋菜(ほていな)などと呼ぶ地域もある。