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第3回 滋賀県
“畑の鮒ずし”と呼ばれる菜の花の「黄金漬け」
菜の花の漬け物と聞いてまっさきに思い浮かんだのが、京都の「菜の花漬け」だった。菜の花のつぼみを収穫した「花菜」は京野菜のひとつに数えられていて、早春を代表する漬け物になっている。ところが、この菜の花漬けに、半年以上も漬け込んだ「黄金漬け」と呼ばれるものがあると聞き、滋賀県大津市を訪ねた。

「黄金漬け」は、深い味わいと香りが特徴

苦味が少ないのは、土のお陰だと言われる

茎が入ると色が悪くなるため、開いた花の部分だけを丹念に手で摘む
 大津市の南東部にある田上(たなかみ)地域は、湖南アルプスと呼ばれる田上山の麓にあり、大戸川が流れて小さな盆地を形成している。豊かな土壌と水に恵まれた田園地帯で、「田上の水晶米」と呼ばれているブランド米の生産地でもある。温暖な気候のため、古い時代から水田の裏作に菜の花栽培が奨励されてきた。
 元々、菜の花は菜種油を搾るために栽培されていたが、頭頂部に花を付けたままにしていると枝が横に広がらず、花が少なくなるため、花を間引きながら株を大きくしていた。田上地域に伝わる「黄金漬け」は、この間引きした花を塩漬けにしたのが始まりだという。
 実は「菜の花」という野菜はなく、アブラナの仲間の総称として使われている。小松菜、大根、白菜、キャベツ、カブ、ブロッコリー、野沢菜なども、トウが立つときれいな“菜の花”が咲く。アブラナの仲間は世界で約3000種類あり、原種アブラナの原産地は北ヨーロッパの地中海沿岸。日本には奈良時代に伝わり、『古事記』や『万葉集』にも登場している。油を搾るようになったのは平安時代からで、江戸時代に行灯が普及したことで菜種油の需要が急増。明治以降は、在来種の菜種と比べて油の量が多い西洋アブラナに切り替わっている。
 出してもらった黄金漬けを味わってみると、酸味のほかに乳酸醗酵した独特なにおいがあり、思わずご飯が欲しくなった。たしかに“畑の鮒ずし”と呼ばれるのも納得で、日本酒のつまみにも合いそうだ。漬け物が食べられないというお嫁さんでも、こ の黄金漬けなら食べられるというのが不思議だが、鮒ずしが好きなら県外の人でも食べられるという。
 「漬けている間に重しがズレてしまうと、そこだけ色が悪くなるんです。そういうものを取り除いておいて、水にさらしてから刻み、ゴマやジャコを加えて空煎りすると、おいしいふりかけになるんですよ」 そのまま食べてもよし、ふりかけにしてもよし。思わず試してみたくなった。

乳酸醗酵が特徴の“畑の鮒ずし”

 菜の花の「黄金漬け」は、水をまったく使わずに、塩と唐辛子だけで漬け込み、半年以上も寝かせた珍しいものだ。乳酸醗酵したすっぱさが特徴で、その醗酵臭から“畑の鮒ずし”という異名を持つ。「花はあまり採らずに、葉っぱを入れて漬け込んでいたのが、この地域の菜の花漬けでした。今はもう花ばかりでぜいたくなものになりましたけどね」
 そう話すのは「農工房ひらの」で菜の花漬けを作るお母さんたち。
ランプ用の油を搾っていたころの花は貴重品で、電気が普及するようになってから、花も食べるようになったそうだ。
 「海苔巻きの海苔代わりに黄金漬けを巻いて、おにぎりみたいにして稲刈りに持って出かけました。子どものころは、花が入っているとうれしくてね。花だけ拾って食べると怒られたもんです」
 葉っぱが主体だったせいか、昼は太陽に当てて、夜はムシロの中に入れて、赤く醗酵させたものを刻んで、少量の花と混ぜて漬け込んでいたという。花がたくさん実ったときでも、採れた種を売って必要なものを買ったり、「お母さんのへそくり」になっていたと教えてくれた。

手前は5日ほど漬けた「新漬け」、奥が半年ほど漬けた「黄金漬け」

「黄金漬け」は洗わずに塩もみし、きれいな黄金色に仕上がるよう細心の注意を払いながら漬け込む
 また、昔から「土一升に金一升」(地価が非常に高い意味)と呼ばれてきた田上地域以外では、同じ種を使っても、黄金漬けに適した菜の花は収穫できないようだ。ほかの地域で同じ漬け方をしても、色が悪くなったり苦味が出てしまうという。
鮒ずしのような独特な風味は、ご飯にもお酒にも合う 京都の松ヶ崎地方にも似たような菜の花漬け(塩漬け後、ぬか漬けする例も)があるようだが、全国的にはかなり貴重な漬け物といえそうだ。

種まきから約1年の手間をかけて

「新漬け」は3回ほど洗い、塩だけで漬ける  水田の裏作で栽培していたことから、菜の花の種まきは稲刈りが終わってから。西日本で親しまれているキヌヒカリは9月上旬から稲刈りが始まるので、下旬過ぎに苗床に種をまき、30〜40日間後に畑に移植する。以前は「赤ダネ」と呼ばれる在来種(種の色の違いから西洋アブラナは黒ダネと呼ぶ)をそれぞれの家で自家採種していたようだが、現在は、種苗会社の交配種をまいている。
「新漬け」は3回ほど洗い、塩だけで漬ける 摘み菜用の花菜として育成された交配種で、側枝が出やすく、二番枝、三番枝の伸びが早いという特徴がある。
 石灰を肥料に用い、40〜50センチ間隔で畑に定植して、2〜3月に間引きをして株を大きく育てる。その間は、毎月1回追肥を与えながら、青虫などを手でつぶす作業がある。
転作の休耕田を借りて、連作を避けて毎年違う場所で栽培し、農薬や除草剤は使っていない。
 菜の花の収穫は12月ごろから始まる。最初は花が若くて小さいので「新漬け」にするそうだ。新漬けの場合、収穫した花を流水で3回洗い、1時間ほど水切りしておく。そのあと桶に入れて、塩を入れて手でもみながらなじませていく。4パーセントの塩分で約5日間漬け、青臭さがなくなればできあがり。袋詰めして冷凍保存しておく。
 「黄金漬けのほうは、花を洗ってはいけません。花粉が落ちて、きれいな色にならないんですよ。満開の菜の花のきれいな色を出すのが難しいんです」
 長期間保存するため、塩分は8〜9パーセントとやや高め。唐辛子を入れてちょっとピリッとした辛みも加えている。おもしろいのが、5月の終わりごろに行なう「ぬか座布団」を作る作業である。米ぬかをぬるま湯で練って、塩と唐辛子を加えて耳たぶくらいの固さにしたものを作り、それで黄金漬けの上を覆ってしまうというのだ。さらにその上に押しぶたと重しをのせて保存する。
 「普通の漬け物と比べると重量のある漬け物石を使います。石が軽いと色が黒くなってしまうので、重さの調整も難しいんですよ。漬け込んだあとも、6月から9月にかけて、日よけや風通しに注意を払います。温度や湿度の管理が大変だけど、黄金漬けができたたときの喜びはなんともいえませんから」

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