長野県を代表する漬物といえば「野沢菜漬け」だが、長野県民でも木曽地方以外の人にはあまり知られていない「すんき漬け」は、赤かぶの葉を使った無塩の乳酸醗酵食品で、すっきりとした酸味を持ち、食物繊維が豊富に含まれている。原料の成分をほとんど変化させることなく保存している全国でも珍しい無塩の漬物である。
その昔、塩は海岸部で作られて内陸部に運ばれた。日本海側から運ばれた塩は塩尻で止まり、太平洋側から運ばれた塩も木曽に届くのはまれだったという。御嶽山の麓の王滝村・三岳村・開田村等は特に交通が不便で、「米は貸しても塩は貸すな」と伝えられたほど、塩は貴重だったのだ。
すんき漬けの歴史は古く、約300年前の江戸時代に、藩に年貢として差し出した記録が残されている。元禄年代に俳人が「木曽の酢茎に春も暮れつつ」と詠んでいて、この「酢茎」が「すんき」に訛ったのではないかといわれている。京都には「酸茎(すぐき)」という漬物があり、塩を使っているものの、乳酸醗酵していて、すんき漬けと風味も呼び名も似ている。かつて京都から移り住んだ人が「酸茎」を元に作ったという説もあるようだ。
平成19年、「木曽の赤かぶとすんき漬け」が国際スローフード協会の「味の箱舟」に認定(日本では15品目)。イタリアに本部を持つ同協会は、世界で消滅の危機にある希少な食材や地域における食の多様性を守ろうと同プロジェクトを進めている。