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全国漬物探訪

第42回 山口県

厳しい寒さの中、塩漬けした大根を寒風にさらして作ることからその名が付いたとされる「寒漬け」。山口県の特産品として知られるこの漬物は、この土地に暮らす人々の食卓には欠かせない、ふるさとの味である。瀬戸内海に面し、温暖な気候ながらも雨が少なく、冬には乾燥した冷たい風が吹き下ろす、山口市南西部の阿知須(あじす)を訪ね、昔ながらの味を守り続ける人々に話を聞いた。

寒干しした大根を醤油や砂糖で漬け込んだ「寒漬け」。コリコリとした食感と素朴な味わいが郷愁を誘う。

宇部台地に続く丘陵地で盛んに行われてきた大根栽培

 瀬戸内海に面した温暖な気候というイメージは、山口宇部空港に降り立った瞬間に覆された。大寒波の余波もあり、最高気温0度という凍てつくような寒さ。寒ければ寒いほど「寒漬け」を作るのに最適だと言われる理由を体感したところで、阿知須へ向かった。

 まずは道の駅「きららあじす」へ。農産物や加工品、お土産物など、地元の特産物が並ぶ。きららあじすの業務部長・久富貴大さんによると、寒漬け用に下処理された干し大根も売られており、家庭で醤油やみりん砂糖などで調味液を作って漬ける方も多いという。寒漬けは阿知須の人々にとって、なくてはならない家庭の味として親しまれているのだ。

地元の特産品が並ぶ道の駅。この日訪ねた柳井ヨシ子さんの寒漬けも並んでいた。

地元の特産品が並ぶ道の駅。この日訪ねた柳井ヨシ子さんの寒漬けも並んでいた。

 阿知須西部に広がる緩やかな丘陵地では、古くから大根の栽培が盛んに行われてきた。久富さんの案内で、農家の国重千代子さんの畑を訪ねた。この時期(1月下旬)に栽培されていたのは「おでん大根」。おでんなどの煮込み料理にぴったりだというその大根は、よく見かける青首大根に比べて根径が太く、キメが細かく味がしみやすいのが特徴だという。

 この地域では、ほかにも時期に応じてさまざまな品種の大根が栽培されており、阿知須の人々にとって身近な食材であった大根の保存食として、寒漬けが根付いてきたようだ。

左:丸々と育った「おでん大根」を手にする国重さん。旬に合わせて様々な品種の大根を栽培している。<br />
右:大根栽培が盛んな地域だからこそ、より美味しく保存するための「寒漬け」が生まれた。

左:丸々と育った「おでん大根」を手にする国重さん。旬に合わせて様々な品種の大根を栽培している。
右:大根栽培が盛んな地域だからこそ、より美味しく保存するための「寒漬け」が生まれた。

寡雨な気候が生み出す味わい深い保存食

 国重さんの畑を後にして、寒漬けを作り続けている数少ない農家である柳井ヨシ子さんのお宅へ向かった。家に到着すると、太い竹で四段に組み上げられた「つけものやぐら」にたくさんの大根が冷たい風にたなびいていた。それでも今年は大根が不作だったそうで、量が少ないそう。

 柳井さんは原料となる大根も栽培している。これまで理想大根や大蔵大根、青首大根など、寒漬けを作るのに適した大根をいくつも試し、行き着いたのが現在の干し大根だという。

冬晴れの空のもと、大根ののれんが揺れる「つけものやぐら」。<br />
かつては冬になると阿知須のあちこちで見られた冬の風物詩。

冬晴れの空のもと、大根ののれんが揺れる「つけものやぐら」。
かつては冬になると阿知須のあちこちで見られた冬の風物詩。

 9月に干し大根の種を蒔き、11月末には収穫。収穫した大根はコンクリートで作られた大きなタンクで塩漬けする。大根が20本ほど入ったネット状の袋を20袋並べ、その上から約15kgほどの塩をまく。その上にまた大根と塩と、交互に漬け込む。最後に大きな漬物石で重しをし、20日間ほど塩漬けにする。

 塩漬けした大根をタンクから引き上げると、次は寒干し作業。同じぐらいの大きさの大根を2本ずつ選び、太い針でひもを通して1セットにするのも、すべて手作業。つけものやぐらに大根を干すときには、風通しの良い上の方に大きい大根を、下の方に小さな大根を干すのがコツ。寒干しする日数を訪ねたところ、「こればかりは天候次第。乾燥した天気のいい日が続けば早く、一日でも雨が降れば長くなる。毎日毎日天気と大根の様子を見ながら、干し具合を見極めていくんです」

参考:宇部市吉部地区での寒漬けづくり(宇部市提供)<br />
左:寒漬け用に収穫された大根  <br />
中:収穫後の塩漬け作業 <br />
右:塩漬けした大根にひもを通した状態

参考:宇部市吉部地区での寒漬けづくり(宇部市提供)
左:寒漬け用に収穫された大根
中:収穫後の塩漬け作業 
右:塩漬けした大根にひもを通した状態

 大根があめ色になりヒビが入ってきたら、干しあがってきた合図。ここからは雨は大敵。大根を建物の軒下へ移動し、水分に触れないように注意を払いながらさらに干していく。雨の日には中に入れ、天気が回復したら再び軒下へ。そして固くなったら 大根をローラーに通して伸ばす。これにより厚みが均一になり、乾きが早くなるのだという。昔はこの“のす”作業もめん棒など手作業で行っていた。「乾いた大根は固くて、手でのすのは重労働でした。そこで押し麦を作るローラーを譲り受けて使うようになってからは、生産量も増やすことができたんですよ」

 のした大根を再び軒下に干し、叩いてカチカチと音が鳴るまで大根が乾いたら、袋に入れて一ヶ月ほど貯蔵。しんなりしてきたら漬けて良い状態になるという。わざわざカチカチに干したものをしんなりさせるのには、わけがある。「ここでしんなりさせないと、調味液につけても固さが残るんです。だからうちではひと月かふた月ほど寝かせて熟成させるんです。そうすると味わい深い寒漬けになるんですよ」

 熟成した寒干し大根を12ミリほどの薄さにスライスし、漬け込み作業に入るが、柳井さんはここでも機械をとり入れている。「干した大根は固くて普通の包丁で切るのは一苦労。伸ばす作業も切る作業も大変だから、なかなかたくさんの量を作ろうと思う人はいなかった。うちも機械がなかったらここまで続かなかったと思います」

 味付けは、醤油、みりん、砂糖が基本。夏場には酒も入れて痛まないように工夫する。一週間ほど漬けると食べ頃になる。

 漬けあがった寒漬けは調味液を吸ってあめ色にかがやき、醤油と砂糖のあまじょっぱい香りが食欲をそそる。阿知須ではご飯のおともにはもちろん、お酒のおつまみにも欠かせない。子どもたちには、カレーに添える福神漬け代わりとして人気があるそうだ。ほかにもお茶請けや巻き寿司の具にと、家庭によってさまざまに食べられている寒漬け。コリコリとした歯ごたえと、噛めば噛むほど染み出てくる大根の凝縮したうまみ。素朴ながらも深い味わいは、どこか懐かしさも手伝って、箸が止まらなくなる。

1:ひもを通す作業を再現してもらった。干す前の大根は大きく、針を通すのもひと苦労だとか。<br />
2:同じぐらいの大きさの大根を組み合わせることで、ムラなく効率的に乾燥させることができる。<br />
3:もともとは押し麦をつくるための機械を、大根を伸ばすためのローラーとして使っている。<br />
4:干しあがった大根をスライスしたもの。この状態になったら調味液に漬け込んでいく。

1:ひもを通す作業を再現してもらった。干す前の大根は大きく、針を通すのもひと苦労だとか。
2:同じぐらいの大きさの大根を組み合わせることで、ムラなく効率的に乾燥させることができる。
3:もともとは押し麦をつくるための機械を、大根を伸ばすためのローラーとして使っている。
4:干しあがった大根をスライスしたもの。この状態になったら調味液に漬け込んでいく。

醤油・砂糖・みりんで作った調味液に漬けて1週間ほどで食べ頃に。あまじょっぱい香りが食欲をそそる。

醤油・砂糖・みりんで作った調味液に漬けて1週間ほどで食べ頃に。あまじょっぱい香りが食欲をそそる。

子どもたちに残していきたいふるさとの味

 柳井さんの漬ける寒漬けは道の駅で販売されるだけでなく、阿知須の小学校の給食にも登場する。毎年2月には小学校に出向いて寒漬けの作り方も教えているという柳井さんは「子どもたちに『給食の寒漬けはどうですか』と聞くと、『寒漬け、美味しいー!』って言うんですよ。やっぱりうれしいよね」と顔をほころばせる。

 かつては阿知須のあちこちで大根が干され、冬の風物詩だったという寒漬け作りも、手がかかることなどから、今では大根の栽培から漬物づくりまですべて行うのは柳井さん一軒のみ。

 それでも柳井さんが寒漬けを作り続けるのには、やはり阿知須の郷土の味を残していきたいという強い思いがあるからだ。生産農家が減ったとはいえ、寒干しされた大根を買って自宅で漬けるほど、地元の人々の寒漬けに対する愛着は強い。

 「原料があれば自分で漬けてみようと思う人はたくさんいるんです。私も調味液の配合をプリントして道の駅に置いていますが、まずはそれで作ってみて、そのあとは好みで調節しながら家庭の味を作っていってもらえれば」と、寒漬けが身近な存在であり続けるためにさまざまな角度から取り組んでいる。

 「阿知須の漬物と言えば寒漬けですから、何とか残していきたい。体が続く限りは続けていきますよ」と意気込む柳井さんは、御歳75歳。つけものやぐらの最上段までのぼり、重たい大根を干したりヒゲをむしったりと、丹精込めて寒漬け作りに励む。

 阿知須の子どもたちは、そんな柳井さんの作る寒漬けの味を、きっと覚えていることだろう。地域の人々の手で守り継がれてきたふるさとの味が、途絶えることなく受け継がれていって欲しいと心から願わずにはいられない。 

「ふるさとの味を残すため、身体が続く限り作り続けたい」と語る柳井さん。

「ふるさとの味を残すため、身体が続く限り作り続けたい」と語る柳井さん。

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