全国漬物探訪

各地で伝え育まれてきた漬物を訪ね歩く

東海漬物

第4回 鳥取県

取材時期:2008年6月

鳥取といえば「砂丘」を思い浮かべるが、その一角の123ヘクタールでらっきょうが栽培されているのをご存知だろうか? 鳥取砂丘に隣接する鳥取市福部町は全国屈指の大産地で、そこで生産されるものは「砂丘らっきょう」と名づけられている。日本海を望む砂の丘一面に咲く砂丘らっきょうの紫色の花は意外にも、北国のラベンダー畑に匹敵する美しさで、観光客にも人気がある。

 らっきょうは中国原産で、日本では薬用として江戸時代に食べられるようになった。鳥取へ伝わったのは、参勤交代のときに小石川薬園(現在の小石川植物園)から種を持ち帰ったのがきっかけといわれている。

 らっきょうは生命力が旺盛で砂地でも育つことから、農家が自家用として栽培してきたが、福部で本格的な栽培が始まったのは酢漬けが一般的になってきた大正時代のころ。かつては、“嫁殺し”と呼ばれた砂丘地での過酷な労働も、現在では機械化が進み、スプリンクラーが導入されたことで、作付け面積は約123ヘクタールと一市町村としては全国一を誇っている。

「砂丘地で栽培されるらっきょうは、透き通るような白さとシャキシャキした歯ごたえが特徴なんです。同じらっきょうでも、他の産地の平地で栽培しているものと品質が違うんですよ」

福部町の砂丘らっきょうは、白さと歯ごたえが特長

 そう話すのは、JA鳥取いなば福部支店の加武田恵子さん。砂丘らっきょうが栽培されている畑は海に近く、塩分を含んだ風の影響もあって、収穫量は平地よりかなり少ないという。畑を案内してもらうと、砂の上に生えているのですぽっと収穫できると思ったら、しっかり根張りしているので簡単には抜けない。傾斜があって水はけのいい畑で品質のいいらっきょうが育つというから、砂の大地にへばりついている力強さを感じさせる。

下左:砂丘地に広がるらっきょう畑。日本海の風に吹かれて良質ならっきょうが育つ
下右:しっかり根を張ったらっきょうは、簡単には抜けない

夏から翌春までじっくり育つ

「今はトラクターで収穫できますが、昔はスコップで根を切るように抜いていたので重労働でした。その後、テーラーという小型の耕うん機で掘り起こしていた時代もありましたが、専用のトラクターができて本当に助かりました」

 らっきょう農家の岡野保子さんは、そう言って当時の苦労を振り返った。昭和45年ごろに、オランダのチューリップの球根を掘る機械を参考にして、らっきょうの掘り取り機が開発されたそうだ。

 らっきょうを掘り起こす前に、地表部に出ている葉っぱを刈らなければいけない。これも昔は鎌で刈って熊手で集めていたそうだが、今は草刈り機と集掃機(棒の付いた大きなローターが回転して草を飛ばす)を用いる。「らっきょうの葉っぱを刈るときは、玉ネギを切るときのように目に染みるんですよ。私は眼鏡をかけてやっていますが、主人は水泳用のゴーグルを付けています」

 収穫は機械化されたが、植え付けはいまだに手作業だと聞いて驚いた。7月終わりから8月末にかけての作業で、日中には畑の地表は60度になるという暑さだ。機械は種を落とすだけで活着が悪いので、根を押さえながら手で植えるほうが効率がいいという。

らっきょうは光が当たると青く、硬くなってしまうため、収穫後すぐに「根切り」を行う

らっきょうは光が当たると青く、硬くなってしまうため、収穫後すぐに「根切り」を行う

 岡野さんの家では「らくだ」という大球に育つ代表的な在来種を自家採種していて、出荷用の畑3ヘクタールのうち、翌年に使う種用の畑が5アールあり、肥料の調整をしながら実の詰まった元気のいい種を選別する。

 せっかく苦労して植え付けても、台風が来て砂に埋もれてしまうこともある。そうなるとらっきょうの芽を掘り起こさないといけないので、芽立ちが揃うまでいつも落ち着かないらしい。

 収穫したらっきょうは、すぐに根を切って出荷される。大粒のらっきょうは根付きのまま、小粒のものは一粒ずつ根と茎を切って「洗いらっきょう」として出荷する。らっきょう畑に隣接する作業小屋で、根切りの様子を見させてもらった。

 よく研いだ包丁が固定されていて、根と茎の部分をひとつずつ切り落とす。根の部分は直角に切れるように、なおかつ切りすぎないことがポイント。見ていると簡単そうだが、なかなかの職人技なのである。根付きのほうは根を1センチほど残し、全体の長さを5~6センチに揃えるそうだ。

「根切り」はひとつひとつ手作業で

「根切り」はひとつひとつ手作業で

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家庭に伝わるらっきょう漬け

 収穫と根切りを見学したあと、岡野さんのお宅でらっきょう漬けの作り方を教わった。岡野さんは、6月25日に放送されたNHK「きょうの料理」の「地元の味をいただきます らっきょうで腕自慢!コンテスト」に出場し、見事に優勝。らっきょう漬けを作って40年以上の漬け物名人なのだ。

 らっきょう漬けには「本漬け」と「簡単漬け」があり、本漬けのほうは2週間ほど塩漬けをして乳酸醗酵させ、塩抜きして調味液に漬けるもの。岡野さんがおすすめするのは、簡単漬けのほうらしい。

「たしかに乳酸醗酵のおいしさはあると思うんですが、塩抜きするときにせっかくの栄養素が抜けてしまう気がするので、簡単漬けのほうをよく作りますね」

丁寧に洗い、薄皮を取り除いたらっきょうは、熱湯にさっと浸してから、氷砂糖 、鷹の爪とともに甘酢に漬け込むのが名人流

丁寧に洗い、薄皮を取り除いたらっきょうは、熱湯にさっと浸してから、氷砂糖 、鷹の爪とともに甘酢に漬け込むのが名人流

 らっきょうの薄皮は水でもみ洗いすると取り除ける。洗ったらっきょうをザルに入れて、ぐつぐつ沸騰させたお湯に10秒間浸したあと、そのまま粗熱を取る。この工程でシャキシャキした感じに仕上がるそうだ。冷めるまでの間、水に氷砂糖を加えてひと煮立ちさせて、純米酢を加えてらっきょう酢を作る。らっきょう1キロに対するらっきょう酢は、水150ccと氷砂糖250グラムを火にかけ、沸騰させて泡が出たら火を止める。砂糖が完全に溶けなくてもよく、冷めたら純米酢350ccを加えて完成。岡野さんの甘酢漬けは、らっきょう1キロに対して、氷砂糖100~200グラム、種を取り除いた鷹の爪2~3本を入れるのがポイント。鷹の爪をたくさん入れればピリ辛になるし、だし用昆布をハサミで刻んで入れたり、レモンをいちょう切りにして加えてもいい。青梅をひと晩水につけてアクを取り、1kgに7~8粒を入れてもおいしく食べられるそうだ。

岡野さんおすすめの「簡単漬け」

岡野さんおすすめの「簡単漬け」

「瓶の下の空間が空いてらっきょうが浮いて、それがまた沈んだら食べごろです。冷暗所に保管して、2週間後くらいから食べられますよ」

 岡野家は4世代の9人暮らし。お孫さんが3人いて、みんならっきょうが大好き。食卓にらっきょう漬けの瓶がいつも置いてあるので、ふらっと来てはおやつのようにつまんでいくそうだ。砂丘らっきょうのシャキシャキ感は、たしかに病みつきになるかもしれない。

左:生のらっきょうをスライスし、みりん、酒、醤油に漬け込んだもの<br />
右:だし昆布を刻み入れたらっきょう漬け

左:生のらっきょうをスライスし、みりん、酒、醤油に漬け込んだもの
右:だし昆布を刻み入れたらっきょう漬け

※取材記事は漬物文化の啓発活動であり、販売目的ではございません。
そのため、連絡先の掲載は差し控えさせていただいておりますこと、ご理解並びにご了承くださいませ。

※掲載内容は取材時の情報です。

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