全国漬物探訪

各地で伝え育まれてきた漬物を訪ね歩く

東海漬物

第38回 台湾・前篇

取材時期:2016年4月

台湾には「酸菜」と呼ばれる漬け物があり、それを使った「酸菜白肉鍋(スヮンツァイバイローグォ)」が人気だという。昔ながらの漬け方は、塩だけで自然発酵させている。そんな伝統的な「酸菜白肉鍋」を提供する店を訪ね、中国の東北地方から伝わる「酸菜」の作り方を教わった。

塩漬けした白菜の酸味がスープに溶け込む「酸菜白肉鍋」

中国の東北地方発祥の「酸菜白肉鍋」

 台湾には、海鮮中心の伝統的な「火鍋」、ピリ辛の「麻鍋」、マトンの「羊肉鍋」など、たくさんの鍋料理がある。そのなかでも、白菜の酸っぱい漬け物「酸菜」と薄切りの「白肉」(豚の三枚肉)をベースに、好みの具材を一緒に煮て食べる「酸菜白肉鍋」が人気を集めている。

 鍋にたっぷり入れる「酸菜」は、中国の東北地方で常食されている乳酸発酵した白菜の漬け物。肉と一緒に刻んで炒めたり、スープの具材に使ったり、餃子の餡に加えたりする。酸味と塩味があるので、調味料的に使うことも多く、日本の漬け物のように、そのまま食べることは少ないようだ。

 白菜と塩だけで自然発酵させる伝統的な酸菜は、野菜が少ない厳しい冬を乗り切るために生まれたという。ちなみに「白肉」のほうは、三枚肉をゆでてから形を整えて、さらに4050分蒸したものを冷凍し、食べる直前に薄切りにしている。ほとんどの脂が抜けて、あっさりしているのが特長だ。

 2007年に台中でオープンした酸菜白肉鍋専門店「老舅的家郷味」は、今では海外からの国賓を迎えて公式晩餐会を開催するほどの有名店。2011年には台北支店も開店した。

台中にある「老舅的家郷味」の本店。台北に支店もある。

台中にある「老舅的家郷味」の本店。台北に支店もある。

塩だけで乳酸発酵させた自然な味わい

 人気の秘密は、お酢や化学調味料を使わずに、塩だけで白菜を漬け込む昔ながらの製法にある。オーナーの聶斌武(ニィェ ビンウー)さんは、子どものころを振り返った。

 「私は中国東北部の瀋陽出身で、小さいころから両親が酸白菜を作るのを見てきて、大人になってからも自分で酸白菜を作っていました。たくさん漬けるので、親戚や友人たちに配って喜ばれ、店を開くきっかけになりました。塩だけで漬ける白菜はさっぱりした風味が特長で、このような漬け方をしているお店はほとんどありません」

 酢漬けにするとすぐ漬けられて失敗がないため、酢漬け白菜で酸菜白肉鍋を提供する店もあるようだが、そうすると酸っぱくなりすぎて、おいしくないという。スープのだしは、豚骨、セロリ、ショウガ、タマネギの4種類を使っているが、酸菜白肉鍋のポイントはだしではなく、やはり酸菜そのものと念を押す。聶さんが自宅で作るときは、だしはとらずに、酸菜とほかの具材だけで食べるそうだ。

「子どものころから親しんだ味」と言う、オーナーの聶(ニィェ)さん

「子どものころから親しんだ味」と言う、オーナーの聶(ニィェ)さん

 自宅の地下にある工場に案内してもらい、酸菜の作り方を見せてもらった。最初に、白菜を半割りにしてから水洗いし、粗塩をかけて20分ほど置いておく。このときには重しを載せないが、断面を上にしておくことで、塩が葉の内部に入っていくそうだ。

 その次に、塩を加えたお湯で20秒ほどゆでる。湯を切るようにして棚に並べておき、冷めてから、かめに漬け込んでいく。このときに使う塩は、粒が細かいものを使っている。雑菌が繁殖しないように、事前に水に浸しておいた重しを載せて、石にも、かめの縁にも塩をまぶして、シートをかけて一晩置く。翌日、適正な発酵を進めるために、かめに水を加え空気を遮断して、シートをかけておく。夏は21日間、冬は28日間で漬けあがる。 

 「暑いときは塩を多めにして、冬は少なめにするなど、シーズンによって作り方を変えています。塩に漬けてから茹でた白菜は、一晩置いたら、また白菜の芯が膨らみます。白菜は漬け込み工程の中で色んな変化をしますが、そういう強い生命力や栄養の高さもおいしさに繋がっていると思います」

1:下漬けのときに使う粗塩<br />
2:断面を上にして、20分ほど置いておく<br />
3:塩を加えたお湯で20秒ほどゆでる<br />
4:かめに漬け込むときは、粒が細かいものを使う

1:下漬けのときに使う粗塩
2:断面を上にして、20分ほど置いておく
3:塩を加えたお湯で20秒ほどゆでる
4:かめに漬け込むときは、粒が細かいものを使う

 かめが置いてある場所の温度を一定に保ち、漬け上がったあとはカットして袋に詰め、冷蔵庫で保管している

温度管理が大事なので、このような地下の作業場が適しているそうだ。

 お店で使うために、11トンくらいの白菜を漬け、できあがりで300kgくらいになるそうだ。できた酸菜は冷蔵庫で1年くらい保存できるそうだが、店で提供するのですぐに消費してしまうという。また、漬け込んだときに残った発酵液は、鍋のスープの隠し味としても加えられている。

水切りをして、白菜が冷めたら、かめに漬け込む

水切りをして、白菜が冷めたら、かめに漬け込む

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薬味を組み合わせて、好みのタレをつくる

 お店に移動して「酸菜白肉鍋」を食べてみる。鍋の中央に筒があり、その内側に入れた炭でスープを温める仕組みになっている。スープに酸菜を入れた鍋がテーブルに運ばれてきた。

 「最初は酸菜の酸味がまだ出ていないので、しばらく待って甘酸っぱさが出てきてから豚肉を入れて、軽く火を通して食べてみてください。あとは、好きな具を入れてお楽しみください」

 酸菜は思ったよりも酸っぱくなく、ほんのりとした酸味と白菜の甘みを感じさせる。豚肉も余分な脂が落ちているので、どんどん箸が進む感じだ。鍋の中に入れる具材は、高野豆腐、キクラゲ、シイタケ、つみれ団子など、数えきれないほどある。

 

左:汁に酸菜を加えて、鍋のベースをつくる<br />
右:中央の煙突内に炭火を入れて、鍋の熱源にしている

左:汁に酸菜を加えて、鍋のベースをつくる
右:中央の煙突内に炭火を入れて、鍋の熱源にしている

 具材を煮込むうちに、スープにも自然な甘酸っぱさが出てくる。オーナーによると、白っぽくなった酸菜は、鍋に入れて煮るうちに白菜の青緑色に戻るという。この色の変化は、塩だけで自然発酵させたものでないと起こらないそうだ。

 このほか、ニラのたれ、味噌だれ、ニンニクのすりおろし、豆腐乳、醤油、辛味、刻みネギが用意されていて、好みの組み合わせでつけだれを作ることができる。豆腐乳、ニラのたれ、味噌だれをベースにするのが定番とのこと。

左:たくさんの薬味が用意されているので、好みのたれをつくることができる<br />
右:奥にあるのがニラのたれ、左下がニンニクのすりおろし

左:たくさんの薬味が用意されているので、好みのたれをつくることができる
右:奥にあるのがニラのたれ、左下がニンニクのすりおろし

 鍋のほかにも、葱油餅(ネギ入りおやき)、牛肉捲餅(牛肉包み焼き)、黄ニラ焼き餃子、水餃子、モツの煮込みなど、いろいろな本場の北方料理を楽しむことができた。

 

右奥にある肉は、冷凍したものを薄切りしてある。<br />
鍋の具材のほかにも、人気の料理が並んだ。

右奥にある肉は、冷凍したものを薄切りしてある。
鍋の具材のほかにも、人気の料理が並んだ。

 

 

 

 

※取材記事は漬物文化の啓発活動であり、販売目的ではございません。
そのため、連絡先の掲載は差し控えさせていただいておりますこと、ご理解並びにご了承くださいませ。

※掲載内容は取材時の情報です。

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