全国漬物探訪

各地で伝え育まれてきた漬物を訪ね歩く

東海漬物

第1回 新潟県

取材時期:2007年11月

漬け物は塩漬けから始まったとされるが、味噌が醸造されるようになると同時に、味噌漬けが食べられるようになった。「手前味噌」という言葉があるように、かつては家庭で味噌を仕込むのが当たり前で、収穫した野菜や山菜などをその味噌に漬け込み、食卓を飾っていたことが思い浮かぶ。野菜のほかに魚や肉の味噌漬けもあり、特に長野県と新潟県で生産量が多い。

味噌屋が仕込んだ「べっこう漬け」と「菊山椒」

 新潟市の「沼垂」(ぬったり)と呼ばれる地域は、古来より北前船が来航する港町として繁栄してきた。沼垂から信濃川に流れ込む栗ノ木川に沿って、味噌・酒・醤油・納豆の蔵元が建ち並び、現在は8社が中心になって「醗酵食品の町・沼垂」をアピールしている。このうち味噌漬けを製造・販売している「峰村商店」を訪ねてみた。

 創業は明治38年で、大正10年ごろから味噌漬けを始めたそうだ。木樽に入れた味噌を各地に発送していたときに、サービスとして樽の中に1本だけ大根を入れたのがきっかけだった。味噌が届くころにはちょうどいい味噌漬けができあがっていて、受け取ったお客さんも驚き、喜んでくれたという。新潟では最初の味噌漬けメーカーで、しだいに種類を増やしてきた。

 「特選べっこうみそ漬け」は、大根・キュウリ・ナス・ゴボウ、山ウド・フキノトウが飴色に漬け込まれた逸品。歯切れがよく、米麹をたっぷり含んだ味噌の風味は、ほのかな甘味を感じさせる。

じっくりと飴色に漬け込まれた、べっこうみそ漬け

じっくりと飴色に漬け込まれた、べっこうみそ漬け

「このほかに、菊の花の醤油漬けも製造しています。これはべっこう漬けに小袋で付けているもので、単品ではあまり販売していないのですが・・・・・・」
 工場長の村山三郎さんはそう言いながら、「菊山椒」という珍しい漬け物を見せてくれた。白根市を中心に栽培されている「かきのもと」という食用菊を、醤油・七味・みりん・山椒で調味したものである。ピンクと白の混ざった花びらで、シャキシャキとして歯切れがよく、適度なぬめりがあり、まさに珍味。

 10~11月の旬の時期には地元のスーパーで生の菊の花が買えるという。酢の物やおひたしが定番で、天ぷらやからし和えなどでも食べられている。

 花の収穫は11月。仕入れた菊のがくを取り、ほこりやゴミを洗い流す。桶に菊の花びらだけを入れ、そこに塩をかけて、さらに菊、また塩という順番で重ねていく。20パーセントの塩分で漬け込み、色を鮮やかに仕上げるために酢を加える。峰村商店では2年分の原料を一度に仕込むそうだ。

 2~3日で水分が浮いてきて、1年で半分くらいのかさになり、これを醤油漬けに加工していく。塩漬けにした菊は板状になっているので水でほぐしてから、調味液に漬ける。14日ごとに切り返し、4週間で完成。「菊の価格が10年前の5倍になり、原料を確保するのも難しくなってきましたが、特に年配の人には喜ばれているので、伝統を守って作り続けていきたいと思います」

 菊の花の醤油漬け「菊山椒」は年間でも50~70キロしか製造・出荷していない、なかなか貴重な漬け物なのである。

食用菊「かきのもと」<br />
出典:新潟県農林水産部ホームページ

食用菊「かきのもと」
出典:新潟県農林水産部ホームページ

目にも鮮やかな菊の花の塩漬けと、醤油漬けにした「菊山椒」

目にも鮮やかな菊の花の塩漬けと、醤油漬けにした「菊山椒」

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赤塚大根の産地で生まれた「からし巻き」

 新潟市の南西の端に位置する赤塚地区は、砂丘を利用した大根生産が盛んで、その「赤塚大根」を原料にした沢庵漬けが昔から知られている。そんな地域で、新たな特産品が生まれて話題になっている。
「昔はこの辺りでも雪がたくさん積もったから、春先は野菜がなくて、薄切りにした大根を天日干しにしたものが保存食としてあったんです。瓶に漬けてあって、田植えのときのごちそうでした」

 そう話すのは、岩崎食品の岩崎召子さん。15年ほど前、農家の女性たちが集まり、町の特産品にできるものを考えたときに、かつて田植えのときに食べていた干し大根の漬け物を思い出した。そして、干し大根の輪切りにからしを巻き込んだ「からし巻き」を品評会に出したところ、大賞を受賞。

 2年ほど製造・販売していたが、採算が合わずに断念。「もう一度食べたい」という声が寄せられて、岩崎さんは1年後に生産加工会社「岩崎食品」を立ち上げた。からし巻きに使うのは、岩崎さんの畑で減農薬栽培した大根である。まず大根の皮をむいて野菜用カッターで4ミリの厚さに輪切りにする。それを乾燥機でカラカラに干して保存しておく。こうしておけば、年間を通じて安定して製造できるのだ。

 防腐剤などの添加物はいっさい使わないため、注文量に応じて製造している。加工場では、大根を熱湯で戻し、水洗いして水分をよく搾る。大根の端にからしを塗って、手でくるくると巻いてから、醤油・みりん・砂糖で味付けした調味液に浸し、冷蔵庫で2〜3日間漬ければ完成だ。食べごろは1週間〜10日後だという。

からし巻きに使用する輪切りの切干大根

からし巻きに使用する輪切りの切干大根

戻した切干大根にからしを塗り、手で巻いていく

戻した切干大根にからしを塗り、手で巻いていく

 干し大根の漬け物と聞いて、切り干し大根を想像していたのだが、輪切りにして干すことは思いつかなかった。このような形の漬け物は、ほかの地域にあるのだろうか?

 冬場は1日約24キロ、150グラム入りの袋を約160個を加工するほど忙しい。

 看板商品の「ピリ辛からし巻き」のほかに、「するめしょうが巻き」「しそ生姜巻き」「ニンニクスタミナ巻き」「あみしそ巻き」がある。いずれも100グラム入り350円、150グラム入り500円で販売している。
「採算を取るのは難しいけど、自分たちが作った農産物に付加価値を付けて販売するのは、やりがいを感じます。安心で安全な商品をどんどん開発していきたいですね」

 お客さんや家族の意見を取り入れながら、郷土食だった干し大根の漬け物を使って、どんな新しい漬け物が生まれるのだろうか?

ひとつずつ手作りで作られる「からし巻き」 1週間から10日後で食べ頃になる

ひとつずつ手作りで作られる「からし巻き」 1週間から10日後で食べ頃になる

※取材記事は漬物文化の啓発活動であり、販売目的ではございません。
そのため、連絡先の掲載は差し控えさせていただいておりますこと、ご理解並びにご了承くださいませ。

※掲載内容は取材時の情報です。

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