大津市の南東部にある田上(たなかみ)地域は、湖南アルプスと呼ばれる田上山の麓にあり、大戸川が流れて小さな盆地を形成している。豊かな土壌と水に恵まれた田園地帯で、「田上の水晶米」と呼ばれているブランド米の生産地でもある。温暖な気候のため、古い時代から水田の裏作に菜の花栽培が奨励されてきた。
元々、菜の花は菜種油を搾るために栽培されていたが、頭頂部に花を付けたままにしていると枝が横に広がらず、花が少なくなるため、花を間引きながら株を大きくしていた。田上地域に伝わる「黄金漬け」は、この間引きした花を塩漬けにしたのが始まりだという。
実は「菜の花」という野菜はなく、アブラナの仲間の総称として使われている。小松菜、大根、白菜、キャベツ、カブ、ブロッコリー、野沢菜なども、トウが立つときれいな“菜の花”が咲く。アブラナの仲間は世界で約3000種類あり、原種アブラナの原産地は北ヨーロッパの地中海沿岸。日本には奈良時代に伝わり、『古事記』や『万葉集』にも登場している。油を搾るようになったのは平安時代からで、江戸時代に行灯が普及したことで菜種油の需要が急増。明治以降は、在来種の菜種と比べて油の量が多い西洋アブラナに切り替わっている。