久室町時代に一般常識の教科書として用いられていた『庭訓往来(ていきんおうらい)』には「澤茄子」の記述が見られ、「みつなす」の読みを振ってある。このことから、和泉国日根郡澤村(現・貝塚市澤)が水ナスの発祥地のひとつといわれている。
澤ナスは泉南地区の田んぼの一画で栽培されてきた在来種のナスだが、泉州地区には村ごとに形状が少しずつ違う在来種があり、それぞれの農家や家庭で受け継がれてきた。同じ貝塚市内の馬場地区で栽培されている「馬場なす」も、原種に近いものと考えられている。
同じ貝塚市内の馬場地区で栽培されている「馬場なす」も、原種に近いものと考えられている。
「水ナスと比べると小ぶりで、形も一般のナスに似ています。皮の薄さとたっぷり水分を含んだジューシーな果肉が特徴で、浅漬かりのぬか漬にすると柔らかく絶品の風味が味わえます。生のまま切ってサラダにしてもおいしいですよ。小さいときに収穫すると柔らかいので好きという人もいますね」
馬場なすは馬場地区でのみ栽培されていて、農産物直売所「いろどりの店」でしか手に入らない。露地栽培の場合、節分のころに種まきをして、4月末に苗を定植する。6月ごろから販売が始まると、目当てのお客さんが次々にやって来る。
現在、専業で馬場ナスを生産しているのは2名で、接ぎ木苗を作ってハウスで栽培する人もいる。そのほかに個人で栽培しているのが10名くらい。収穫時に色や形のいい実を残して自家採種しており、種は門外不出だという。