蒸した茶葉にカビ付けしてから漬物にしたのが「碁石茶」や「石鎚黒茶」である。碁石茶はその名の通り碁石状に固まっており、石鎚黒茶は茶葉をばらばらに仕上げる。好気性発酵と嫌気性発酵の二段階発酵が特徴で、地元ではほとんど飲まれずに、瀬戸内海方面に運ばれ、塩と交換したり売られていた。井戸に塩分が混ざる土地柄のせいか、碁石茶のように風味が強いお茶が好まれ、茶粥に使うお茶としても親しまれたようだ。
一方、ゆでた茶葉を野菜と同じように漬物にしたのが「阿波番茶」で、いずれも微生物発酵茶(後発酵茶)である。紅茶やウーロン茶は茶葉の酵素による自己発酵(前発酵茶)で、加熱前にカビ付けの工程が行なわれる点に違いがある(紅茶のほうが発酵度が高い)。また緑茶は発酵させないため「不発酵茶」に分類される。
お茶の新芽を刻んでゆでてそのまま食べたり、塩で味付けして食べるのは、中国の雲南省から東南アジア北部に見られるが、茶葉も一種の野草と考えればいいのだろうか。ほとんどは「食べる漬物茶」だが、ミャンマーでは阿波番茶と同じ「飲む漬物茶」がある。ミャンマーの都市部の井戸には塩分が含まれるので、四国の碁石茶が瀬戸内海で好まれたのと共通しているとの研究もある。
阿波番茶の地元には、弘法大師が茶の種を持ち帰ったという説がある。四国八十八ヶ所の第二十一番札所・太龍寺に登り、潮風を防ぐ地形と深い谷の気候がお茶の栽培に向いているとして製造の秘法を授けたそうだ。